映画「つぐみ」の舞台、西伊豆松崎へ

13、14と1泊2日で、伊豆へ家族旅行をしてきた。海が見える高台のホテルでごちそうを。家族旅行なんて20年ぶりぐらいか。ずっと自転車操業で、経済的余裕がまったくなかった。ベルギー旅行(単独で知り合いたちと)なんて、あれは18年前ぐらいかと思うが、よくぞ行っておいたと思う。カネがないのは首がないのと同じと関西人は言うが、首なしのロングランであった。

伊豆下田は寝姿山へロープウェイで上り、そのあとペリーロードという定番の観光地巡り。「ぺぺ」という喫茶店で飲んだ、自家製梅サイダーがうまかったです。昼はロープウェイ乗り場近くのうどん屋へ入ったが失敗だった。かつ丼セットのかつが作り置きでぼやけた味わい。下田の街なかはシャッターが閉まった店がおおく、わびしい感じであった。お土産物屋へ入ったら、やり手ばあさんみたいな女性につきまとわれ、買うまで帰さないモードであわてて店外へ。みんな大変です。

翌14日、ぼくの希望で西伊豆・松崎へ。家族と別に単独でと思ったが、聞くと一緒に行くというので東海バスで50分ぐらいかけて山を越える。なまこ壁で有名な(「長八美術館」)海辺の町松崎へ。ここは1990年、市川準監督「つぐみ」のロケ地となったところ。前から機会があれば行きたいと思っていた。これは「オカタケな日々」にたっぷり書きたい。廃業して空っぽの「まりや書店」の外装と店名にしびれる(「つぐみ」はつぐみとまりあの物語だった。書店名は「まりや」。寂れ方から見ると、吉本ばななの原作より店が先。

移動時間が長く、宿でも夕食をたべたらすることがなくて、2日で持参した2冊を読み上げる。ローレンス・ブロック『殺し屋 最後の仕事』と、マイクル・ℤ・リューイン『男たちの絆』。両方とも複雑にからみあったプロットが進行し、よくこんな話を思いつくよなと感心する。

2日間、丸々留守にし、最初に家のドアを開けたのはぼくだったが、音を聞きつけ、猫2匹がとびかかるように駆けつけてくる。何があったかと心配していたのだろう。

秋が深まり、虫の音が高くなる。「本の雑誌」連載「憧れの住む東京へ」第三章は浅川マキと決めて準備を始める。まだ方針は立っていない。しかし「新宿」が起点となるのは間違いない。

真夜中の締め

本の雑誌」11月号(「特集 出版で大切なことはすべてマンガで学んだ!」)が届く。ということは原稿締め切りの時期だ。「憧れの住む東京へ」の洲之内徹編第11回目を書いて送付。これで洲之内編は終了。長く引っ張り過ぎただろうか。それでも十分書けたという気がしない。来月からは「浅川マキ」はどうか、と考えている。まだ、なんの準備もしていない。ウィキペディアを見ただけ。資料集めと作戦はこれから。何か、導き出せるだろうか。マニアックなファンが多いのでちょっと怖い。

水曜締め切りの「サンデー毎日」も所用あって、今夜日付が変わる前に送付。あんまり早くて担当者はびっくりするかもしれない。酒を飲みながら、だが、やればできるという自身にもなった。

 

「鉄」を注入

台風接近にともなう止むことない長雨に閉じ込められて、家を出ない数日があった。ずっと本を読み、テレビやユーチューブで「鉄道」ものを視聴していた。鉄兜をかぶったように「鉄」が注入された。

初めて知ったBSTBSの「鉄道・絶景の旅」に魅せられる。「鉄」タレントが出て、あれこれ言うのもそれはそれで面白いが、これはナレーションのみの進行。ひたすら鉄路、車窓の風景、飲食店、宿を紹介する。私が見た回は「下関~日本三景」前後編の後編。宇部線常盤駅」から「新山口」、山陽本線で「防府」「富海」「柳井」などと途中下車していく。「岩国」から岩徳線(本当は「川西」が起点)。

ダーリンハニー吉川の「鉄道ひとり旅」は「鉄」マニア直球の番組で、再放送をときどきチェック。青森「弘南鉄道」は私も未踏の路線。吉川が行く先々で知り合いに会うというのもすごい。「中央弘前」は木造系ではないがシブい駅舎。プラモデルにしてほしい。「伯備線」「京急線」の回もしびれた。

「鉄」ユーチューブも見始めると山のようにアップされていてきりがない。嬉々として、ただ乗車し続ける映像にあきれながら感心もする。JR西日本の「新快速」がいかにすぐれた普通乗車券で乗れる「特急」かを、新大阪から京都まで試乗し、とぎれなく解説するのもあった。1985年までは、大阪から京都までノンストップで、新大阪、高槻にも止まらなかったとか、「山崎」駅は日本で唯一、ホーム上に府境(大阪と京都)があるとか、複々線なので通過専用の線があるとか、知らないことばかり。

古通」は次回、「仙台」編をすでに原稿を書き上げ、その次が「長野、上田」がスタンバイしている。12月はどうしよう。前から計画を練っているのは、都立大学駅から石川台まで、呑川本流緑道を歩くコース。「石川台」では、小津「秋刀魚の味」のアングルをチェックしたい。

マット・スカダー『暗闇にひと突き』にディラン・トマスが

昭和初期の20歳の文学青年の日記に感化され、彼が生まれ育った呉市倉橋のことが気になる。各種観光ガイド本では無視される地域。図書館で『広島県の歴史散歩』を借りてくる。ここには倉橋の記述がある。万葉集の遺跡がある由緒ある歴史を持つ町だと分る。行くとしたら呉駅からバスで1時間ぐらい。どこかの雑誌で「行ってきてください」と仕事にしてもらえないだろうか。

今日はサンデーの本選びと原稿締め切りが重なり、目覚ましをかけて朝早起きして原稿を上げ、午後竹橋へ。いちおう3週分選ぶ。何があるかわからないので。神保町か中央線沿線で帰り、散歩しようと思ったが小雨が落ちてきた。あわてて帰還。それでも自転車で帰宅中、ずぶぬれになった。しかし、まだそれほど寒くなく、気持ちいいぐらいだ。

ローレンス・ブロック、「マット・スカダー・シリーズ」『暗闇にひと突き』を面白く読む。やっぱいいいなあ。スカダーはまだこの時アル中で、コーヒーにもウイスキー(バーボン)を垂らして飲む。ジャニスという、元保育所経営で現在はソーホーで彫刻を作る脇役の女性が魅力的。スカダーと心を通わせ、ベッドもともにする。彼女もアル中で、禁酒を誓い合う会合に出ている。スカダーはそれを聞いて入会を拒否するが、のち『八百万の死にざま』では禁酒して会合に参加することになる。ポケミスのスカダーものはこの2冊で、あとは二見文庫に多く収録(ぼくミステリは初心者なので、間違っていたらごめんなさい)。ところが、この二見文庫が、古本屋ではなかなか見ない。吉田健一の中公文庫に入っている小説もなかなか見ませんね。『暗闇にひと突き』には、ディラン・トマスの詩が引用される。ディック・フランシス『横断』でも出てきますね。

ぼくも毎晩、欠かさず飲んでいるからアル中だ。やるせないことが多く、長すぎる夜に仕方がないのだ。飲まない人は、どう人生をやりくりしているのか。

 

呉市倉橋在住の昭和2年に20歳の男性の肉筆日記研究

うかうかしていたら10月か。月がきれい。2日、盛林堂で少し補充と清算。先月の売り上げはほとんどないと覚悟していたら、それなりにいい。助かった。高円寺「西部展」へ。あれこれ1400円買う。なかに昭和2年に20歳男性の個人の肉筆日記あり。名前も住所もなく、記述からあれこれ推測すると、呉市の瀬戸内の島「倉橋」の浜沿いの町に住むと分る。大正天皇ご大喪、芥川の自殺などにも触れ、これが大変な読書家、勉強家でハイネ、メーテルリンクドストエフスキー、有島、厨川など片端から読破している。しょっちゅう東京の出版社へ注文を出し、改造社、新潮社の円本も購入。アルスにミレーの画集も注文している。さぞ高価だったろう。原書も読んでいる。最後の知人の欄にあるのも出版社、古書店の住所。

どうやら郵便局に勤めているようだが、妹は実践高女、兄は立教大と、おそらく裕福なインテリ一家で、日記氏のみ旧制中卒のようだが、この年の末、いよいよ上京していく。「上京する文學」だ。青年らしい苦悩や煩悶が随所に見受けられ、時代の子である。よく「桂浜」に散歩する記述があり、これで最初四国かと勘違いした。鉄道はなく、汽船による交通が盛ん。移動はもっぱら船による。倉橋へ行きたくなってきた。

昨夜は半年ぶりに牧野伊三夫邸におよばれ。いつも同人が集まって作業する「四月と十月」発送が、コロナ禍で、近所のお二人+牧野夫妻による。ぼくは夜の宴のみ参加。そこで、秋田県湯沢への古いアルバム旅の話をすると、なんと、牧野夫人の故郷が湯沢であった。大いに驚く。ラーメン一品のみの「長寿軒」の名を出すと「父のいきつけ」でしたという。牧野さんも食べている。

「食」は100点満点の旅

「大人の休日」を使って、27日が仙台、28日が秋田県湯沢、昨日29日が長野、上田と旅してきた。今日、あと1回残っているのだが、サンデーの締め切りがあってパス。それでも7万5000円分は乗ったと思う。もう十分だ。

湯沢へ行ったのは、菅首相の故郷(いたるところに「祝」の看板や幟が!)ということではなく、以前古書展で買った、昭和12年の個人のアルバムが、細かな情報から総合すると「秋田県湯沢」の人のものだと分かったから。これをもって現地で確かめようと思ったのだ。駅について、観光案内所に入るとガイドの老齢な男性がいて、これこれこうとアルバムを見せると大興奮されて、一挙、いろんな謎が解決。これは古本屋がらみではないので、春陽堂「オカタケな日々」でくわしく書く。

長野は古本屋めぐり、上田は前には行けなかった旧北国街道を映画「犬神家の一族」ロケ地ということで歩く。岡崎酒造という蔵元があって、ここへも立ち寄る。古本カフェ「コトバヤ」へも寄れたので、これは「古通」に。

湯沢では食べるところがなく、偶然見つけた「長寿軒」に入ったら、通りに人はいないのにここは満席に近い繁盛ぶり。ラーメン一種(ラーメンとラーメン大がメニュー)という単品のみのラーメン屋(味噌もチャーシューもタンメンもなく、ギョーザやチャーハンなども一切ない)で、さすがにうまかった。汁が少し地震が来るとこぼれそうなほどなみなみと鉢を埋める。汁は3分の1ぐらいしか飲めなかった。持ち帰りたかった(あとで検索したら、ラーメン野郎が目指して来る店だった)。

長野では検索したら「古本」と「とんかつ」という異色店「成徳屋」(普通の古民家で一階が古本、二階がカフェ飲食)を見つけ、これを目指す。路地のまた裏側の通りに猫がねそべるひだまりの店で、ここのとんかつ定食1500円が、なんというか感動的な品だった。詳述する元気がないが、店主が客に、豚ロースの塊を見せて「どこの部分をお切りしましょうか」とまず聞く。それから4,5センチはあろうかというロース肉を、たぶん低温でじっくり揚げる(時間はかかります)。出てきたとんかつは芸術品で、ドバドバソースはなく、小さな入れ物に少し特製たれが入っている。あとは塩で肉本来の味を食す。薄い肉を使ったとんかつの3倍はあるか。味噌汁、ごはんがお替り自由で、冷奴と小鉢がつく。新しいとんかつの地平が広がった。若い男性2人、あとでインスタ映えっぽいカップルが一組入ってきた。古本を一冊買う。

今回の旅で「食」は100点満点。いつも立ち食いソバや全国チェーンの中華や牛丼で済ませたりするぼくとしてはよくやった。さすがに疲れました。