「ホモサピエンスの涙」と「ずん喫茶」

早い梅雨明けのあと灼熱の東京。青森がなつかしい。地下にあるわが仕事部屋はそれでも最高28度まで。階段を降りるとひんやりしている。窓(横長の薄い)を開けるとクーラーはいらない。「日経」に書いた、中澤雄大『狂伝 佐藤泰志』書評の掲載紙届く。著者からも礼状をもらう。

春陽堂書店ウェブ連載(月2回更新)「オカタケな日々」の2回分、「83」「84」を送付。あらかじめ描いて送ったイラストは映画「ホモサピエンスの涙」と飯尾和樹「ずん散歩」。その春陽堂から、これまで描いて送ったイラストが返却されてくる。「16」から「70」回までの分。それ以前の分は、ずいぶん前に返却されている。見ていると面白い。彩色もモノクロとカラー。カラーでも初期は色鉛筆、のち水彩が主流となる。水彩の場合、塗り絵のように塗りつぶすのではなく、少し塗り残しを作ることで画面に力が出ることに気づいた。絵を描くのは無責任に楽しい。

7月、8月もこの調子でずっと暑いのか。八王子が意外に気温が高い。冬は寒いから、温度差の高い街だとわかる。甲府もそうだ。いや、京都もそうだったぞ。盆地、ということなのか。

新潮とんぼの本つげ義春がフランスで開かれた個展のため、初めて海外旅行(正介さんが同行)に行ったルポが届く。行く直前まで「行きたくない」と言い、空港でも「もう帰りたい」とつげ義春。おもしろい。パリでもぜんぜん楽しそうじゃない。しかし被写体として絵になるので、バンバン写真に撮られている。ほとんど「食」が合わなくて、ほとんど食べない。日本のサンドウィッチを食べたいと言う。おもしろい。調布の自分の家がいちばんいいのだ。ぼくにもそんなところがある。

津軽鉄道を2度楽しむ

先日、録画を見た「聞き込みローカル線 気まぐれ途中下車の旅」(長すぎる)の「津軽鉄道」をまた見る。何しろ、現地を見たばかりだからねえ、リアルさが違います。2度楽しみました。前は気づかなかったが、2014年7月7日放送分の再放送だった。清水宏保の金メダルはまだ記憶に新しく大人気(今なら、誰?となるかも)、村井美樹はよく見るとやっぱり少し若い。村井美樹はいい。同じ鉄女のIが、鉄を語るのにいらっとするのはなぜだろう(だいたい理由は分かっているが書きません)。

金木駅で夕方、2人で食事をする「桐華(きりか)」も、先日チェック、写真に撮ってきた。私が今回寄った「(太宰)疎開の家」は2014年には開館していなかったのか、2人はノーチェック……と再視聴でいくつか気づいた。斜陽館への分岐点角の「たこ焼き」店は健在。「芦野公園」駅手前車窓に戦闘機があったのを、つい失念し、見落としてしまった。

津軽鉄道の経営は厳しく、車内に「津軽鉄道はいつまでもあると思っていませんか?」というような切ない訴えのポスターが張ってありました。

百人は入れる千人風呂

実は昨日、「大人の休日」3日目を使って、中央本線上諏訪」の「千人風呂」に入ってきた。自由席のなくなった「あずさ」の指定を取り往復で使う(往きは満席)。昼前に駅について、シルク王片倉の片倉館に隣接する古城のような温泉銭湯に入る。10年以上ぶりか。駅の観光案内所で100円引き券をもらう。浴槽に浸かったのは5分くらい(長湯が苦手)、40分ほどで館を出て、諏訪湖畔で15分ほど風に吹かれてたたずみ、もう駅に戻ってきた。弁当とビールを買い、12時台の「あずさ」でかえってくる。こんなバカなことができるのも「大人の休日」の使い道だ。下諏訪、上諏訪は好きな街。

「大人の休日」4日目最終日の本日分は放棄。青森の往復で4万円近く分は乗っているから、上諏訪行を足してもう十分だ。無理はできなくなっている。「オカタケな日々」原稿を書き始める。6月ももうおしまい。小田嶋隆さんが亡くなった。同い年だ。宮内悠介・ぴっぽ両氏の結婚式に出席し、同じテーブル(ぴっぽさん側関係者)に座ったのが小田嶋さんだった。売れっ子のライターだった。

昼はソーメン。もうこの先9月ぐらいまで、昼はソーメン、うどん、そば、冷やし中華のローテーションでいい。ジェフリー・ディーヴァーの新作長編を読み始めている。

青森へ。「斜陽館」と「寺山」の2大制覇

少しごぶさたしましたが、青森へ一泊で行っておりました。「赤旗」文学館へ行こう、の取材で、23日が津軽鉄道・金木の太宰治「斜陽館」、24日は青い森鉄道・三沢の「寺山修司記念館」へ。こういう仕事をしていて、ぜがひとも訪れたい大物物件2つを制覇できてよかった。余は満足である。青森では東横インに投宿。コンビニでビールほか酒類とつまみを仕入れ、ホテル室内で阪神戦を観戦。翌朝は港を’(この時だけ雨、あとは傘いらずだった)見て、移転なった「らせん堂」、前回(もう5年くらい前なのか)行けなかった「古書 思い出の歴史」をチェック。やっぱり古本屋探訪がないと。

文学館は「赤旗」に、古本屋は次号「古通」に書きます。取材費はちゃんと出るのだが、安く行ければ越したことはないと「大人の休日」パスの2日分を駆使する。事前に立てた乗り換えのタイムスケジュールを、一度もミスすることなく乗りこなす。ぼくのようなぼんくらにとって、これは大したことなのだ。新青森から津軽鉄道へ乗り継ぐ「五所川原」(jr「五所川原」と津軽鉄道津軽五所川原」は隣接)へ行くのに、奥羽本線「川部」で乗り換え、五所川原まで乗り継ぐのが順当だが、「川部」で一時間強待ちとなる。グーグルのストリートビューで見たら、駅前、何にもないの。ここで一時間待ちはきつい。そこで新青森から五所川原まで路線バスに乗る。所要一時間で料金1060円。これが楽しかった。かなり早く五所川原に着いて、町を散策する時間ができた。

「寺山」は原稿に書きますが、三沢駅から10キロ以上離れているのか、土日祝はバス便(本数少なし)があるものの、タクシーしか手がなくタクシー利用で往復8000円かかった(記念館で運転手さんに待機してもらった)。鉄道利用で行くなら土日祝、ですよ。しかし、行けたことは本当によかった。

津軽鉄道(数日前、鉄道番組で清水宏保とわが村井ちゃんが津軽鉄道全駅下車の旅をしていたのでリアル)にも乗れたし、青い森鉄道にも乗った。鉄分補給も満点。24日、三沢を午後3時48分の八戸行きに乗り、はやぶさで大宮、うまくむさしの号に乗り継ぎ(国立を通る便)、バスで帰宅したのが夜8時。驚くほどの速さだ。心残りのない、ほぼ完ぺきな青森旅、となりました。さすがに疲れましたが(頭に藁くずが詰まったよう)。青森は涼しく、灼熱だったらしい東京から離れていられたのも「幸」としよう。阪神も調子いいです。

阪神も敗けることがあるんやなあ

阪神、横浜戦(ディーエヌエーとはアルファベット表記も面倒だし気に食わない)3戦全勝とならず負ける。「阪神も敗けることもあるんやなあ」と、前半戦を考えれば怖れを知らぬ感想を抱く。西純矢は孫の活躍を見るように応援しているが残念。しかし、「父の日」に引っ掛けて「父の日に、亡き父へのプレゼントとならず」云々の湿っぽい表現はいいかげん止めてもらいたい。

年金受給者となり、苦手な申請書類に記入するが、これが膨大な量で、妻がいちいち「ここに名前書いてハンコを捺して、ここに〇して」と言うのに従う。まるで母親と小学生みたい。戸籍謄本が必要となり、今日、住民票のある川崎市多摩区の区役所へ夫婦で赴く。登戸から歩いたが、向ケ丘遊園駅のほうが近い。このあたり大規模な再開発中でかつての田舎町ふうの面影はない。考えたら、南武線小田急線が交叉し、便利な場所だ。北口の好ましい木造駅舎は健在(ちかごろ、リニューアルされたという)。1927年開業当時の駅舎をそのまま生かしている。記念撮影をしておく。

よく知るのは南口の向ケ丘遊園側で、我々が移り住んだ時は遊園も健在で駅前からモノレールが遊園まで運行していた。一度、わざわざ遊園には入らないのに乗車したことがある。いま考えたら、おもちゃの街のような光景であった。丘の上には観覧車がゆっくり回っていた。丘の上に住む庄野潤三一家と、主なきあと、つながりができるとは、想像もしていなかった。人生は驚きに満ちている。

川崎市多摩区宿河原に結婚して住んだのは1993年か。もう30年近く前になるのか。区役所で用を済ませ、向ケ丘遊園駅近くの「ブ」へ寄ろう、と言うと妻が「ええっ!」と嫌なリアクションをする。「いや、ここまで来て『ブ』へ寄らないで帰ると、あとで古本仲間になんていわれるかわからない(岡崎さんも年老いた、焼きが回ったなど)」と、むりやり行くが、何も買えず。

夜は長く、阪神の勝利は続く

17日夕、国立で某社Nくんと待ち合わせ。「しんさく」という喫煙可の店で飲む。各社渡り歩いてきた編集者が、この春、また別の出版社に移り、一緒に仕事をと声をかけてくれた。彼にはすでに一冊、本を作ってもらっている。「しんさく」とは高杉晋作であり、山口の郷土料理店だと入店してわかる。隠れがのような入口だが、入るとけっこう奥まで広い。50人は入れそう。メニューに吉田松陰の絵もある。長州の店だ。大きな茄子を焼いてショウガとおかかを散らした料理がうまかった。一品、いっぴんが出来合いでなく、ちゃんと調理されているのがわかる。コロッケもうまそう。店員の接客もよし。

あれこれ2時間ほど、これまでの2人の交友関係、出版界の話をする。「企画を必ず通しますので」というので、期待しておこう。すでにこちらは準備を始めているが、それがダメになっても準備をしたことはこれからのライター稼業に生きる。「ダメでも、ぜんぜん心配しなくていいいよ」と告げる。じじつ、昨今、出版事情は悪化。

酒飲み(ぼくより飲む)のNくんをさそって、国立で飲むと必ず締めとする(といって1年に1,2回だが)ジャズバー「韻」へ。ジャズを聴きながら(音量が小さかったので、ほかのお客さんに迷惑にならない程度で上げてもらう)バーボンソーダを1杯、また1杯。うまい。それにいい気分。「三日月書房」均一で、吉行淳之介編『また酒中日記』を。帰宅してテレビのチャンネルを合わせると、ヒーローインタビューに大山とアルカンタラが。阪神、ヨコハマに勝利したとわかる。ただいま4位。3位とも接近していて、これは出だしの地獄を思えば夢のよう。しかしヤクルトは月ほど遠い。