メリーという名の犬

四月ももう半ばだというのに寒いです。しまった半纏をまた出して着て、『これからはソファーに』のカバー版画(森英二郎さん)にある、赤いソファーに寝転んで、ひざ掛けをかけ、ジャズをかけながら、ずっとずっと本を読んでいる。本当に、ずっとずっとだ。

小山清が読みたくなって、新潮文庫三上延編『落穂拾い・犬の生活』(ちくま文庫)を。後者は、三上さんの『ビブリア古書堂』に小山清『落穂拾い』が登場するというので、企画された文庫。よく出しておいてくれました。そういえば、おれは『犬の生活』を持っているぞ、会津若松の勉強堂さんで安く買った。「落穂拾い」なんて、いったい何度繰り返し読んだか。だが、やっぱりいい。蟲文庫さんのことをいつも思い出す。

「犬の生活」は、小山らしい独身の中年男が、年よりの後家さんが住む家の離れに間借りして、行きがかり上、一匹の犬を飼う話。吉祥寺・井の頭公園の近くである。その犬はメスで身ごもっていた。「メリー」と名付け、だんだん情が移っていく。不器用な手で犬小屋を作ってやり、医者に見せて、鑑札を取り、貧しいながら首輪と鎖も上等のを買う。その理由とは……。

「私にはむかしから羊羹や沢庵をうすめに切るくせがある。私はこの際自分のそういう性質を改良すべきだと思った」

ははは、とここで思わず笑った。読んでいて、なんだか自分のような気がしてきたからである。小山清の全集が欲しくなってきた。昭和44年に出た旧版なら5000円ぐらいから買えそうだ。いや、これで十分だ。ちょっといい店での、ひと晩の飲み代ぐらいだ。誰かと会って、話したくなってきた。「いや、小山清全集が欲しくてさ」と。