階段からサルベージ

昨日、雨に閉じ込められて、終日家にこもる。本が読めてしかたがない。荷風とその関連に丸谷才一司馬遼太郎に、関川夏央『子規、最後の八年』に、パヴェーゼに、とめちゃくちゃだ。もちろん書評用の本も読む。一日に三冊は、分量として読んでいるだろう。階段に積んだ処分用の本を、階段の上り下りの際、つい見てしまい、けっこうサルベージしている。いかんなあ。いったん処分と決めた本に手をつけては。しかし、それで発見もあるのだ。買い取りに来てもらうのは、さらに長引きそうだが、なるべく触らないでおきたい。

ロス・マクがさらに一冊、地層から発掘され、『トラブルはわが影法師』はリュウ・アーチャーものではなく、初期長編。訳は小笠原豊樹。1945年2月、戦時下のハワイ・ホノルルから物語が始まるというのが珍しい。パールハーバーに停泊した軍艦から下船した海軍少尉サムが探偵役となる。日本に通牒するスパイがいて、それがだれかということで話が進む。いくつかの殺人がある。大陸横断鉄道の移動がある。恋がある。黒人による謎の組織「ブラック・イスラエル」と混沌としている。「マンハッタン計画」に触れられ、「今に日本の町も一つ残らず失くなるんだ。日本列島ぜんたいが、空地になっちまうんだ」などという恐ろしい発言もある。小説を読む間、忘れがちになるが、この年、日本本土への度重なる空襲があり、広島、長崎への原爆投下がある。

もちろん意外な結末が待っている。タイトルは、サムが動くところ、その先に殺人、暴力が起きるところから「トラブルは君の影法師だ」とFBI捜査官に告げられるシーンに由来する。レコードが思わぬ小道具として使われます。

やっぱり細部の描写がいい。サムが敵手に落ち、後頭部を殴られ気絶するシーン。

「わたしの肉体は原形質に逆戻りし、心は暗黒に還った」

冒頭近い、ハワイでの描写もいい。主人公サムの未来の予兆でもある。

「山の斜面には光が滝のように輝いているけれども、オアフ島の主峰におおいかぶさった黒雲は、まるで何かの暗い運命のように夜空を圧している」

恋人とのお熱いキス。

「世界が収縮して、熱っぽい小さな円形になった」