小さな貨物が橋を渡ってる

駅のチラシ置き場からもらった「元気です!千葉 鉄道発見伝」に「久留里線」が紹介されていて、そうか「久留里線か」とその気になる。「青春18」3回目。本日早朝、まだ明けやらぬ闇のなか動き出し、5時過ぎの電車で東京駅まで。通勤の群れと逆行して地下3番ホームから総武線快速「君津」行きに乗り込む。「木更津」で対面ホームから始発の「久留里線」2両ワンマン、非電化で久留里に着いたのが9時過ぎ。乗り換え2度でのルート。久留里線には「田」のつく駅名が多いが、沿線には刈り取った稲田の荒涼たるパノラマがずっと広がる。ほとんど無人駅。昼間の利用者も少ない。

久留里は「水」の町。良質の「水」を生かした酒造りの町でもあり、いくつか大きな酒造所がある。町の隅々、あちこちふんだんに湧き水が噴出し、それを大量のペットボトルに汲み帰る人たち以外、誰もいない、何にもない町だ。「遠くの街並み 明るく陽がさす/小さな貨物が橋を渡ってる」と、ついガロの「美しすぎて」が口に出る。山上路夫村井邦彦コンビによる名曲。なんという詩情であろうか。

いや、久留里に何にもない、なんて言ったら怒られる。山の上に城跡と再建した天守閣がある。しかし私はスルー。城に興味がないんだな。「くるり」という軽快な語感に誘われての小旅行だ。今のところ、多くを望まない短詩型みたいな日帰り旅が、私には楽しい。合っている。

1時間半ほど町をぶらつき(ただただ、静かな気持ちに包まれて)、誰にも触れず、喋らず、無感染を貫く。郵便局で葉書を一枚買い、知人宛てに文面を書いてその場で投函。これは寅さんの真似なり。そして11時過ぎの上りでもう帰還。洞窟のようなアーケード商店街の中華でラーメンと考えたが、これを逃すと、次は午後1時近い便になる。2時間の空白はきつい。往復の車中、3度めか4度めのチャンドラー『長いお別れ』を読む(清水俊二訳)。2時過ぎには国立着。これでいいんだ。早めに動き出すと、電車もまだ座れるし、明るいうちに帰って来られる。