初場所溜席の妖精

トラックのタイヤに轢かれ、つぶされたらくらくフォンを家内が使わなくなったアイフォンに機種変更するため「ドコモ」へ。窓口でも喋るのはほとんど妻で、ぼくは母親に付き添われた小学生低学年児童のよう。わりあいすんなり手続きが済み、圧倒的に便利な機種となったが、なにがなんだか皆目わからない。必要な時に、少しずつ機能や操作を学んでいくしかない。いまは触りたくない。昭和のままでよかったのに。

大相撲初場所千秋楽、平幕の大栄翔が初優勝。思わずテレビに向かって拍手する。この場所で注目したのが明瀬山と宝富士で、ともに場所を盛り上げた。今場所はけっこう時間をかけたいい勝負や珍しい決まり手が出て、おもしろかった。横綱不在でも十分見ごたえがあったと思う。ひいきの宇良を見るため、3時ごろから見始め、5時ごろから酒を飲み始め早々沈没の日々が終わる。体のためにはよかった。

話題になったのが溜席で、毎日同じ場所で背筋を伸ばして正座観戦するマスク美女。最初、有名な女優かと思ったが思い当たらない。ケータイで試合中に喋ったり、バシバシとスマホで写真を撮るようなはしたない真似は一切しない。凛として涼やかで美しい。ずいぶん彼女の存在は関係者の間でも「誰だろう」と話題になったそうで(一般客の押さえられる席ではない)、直接話を聞いた人もいるが分らなかったそうだ。名づけること「溜席の妖精」。CGによる埋め込み画像かとも思ったぐらい。こんな客がいてほしいという。彼女が画面に映りこむのを見るのが途中から楽しみになった。「週刊文春」の取材が始まっているかもしれないが、いやそっとしていてほしい。やはり野におけレンゲソウ、である。

ここからは想像。おそらく有力タニマチの娘で、この春嫁ぐことになっている。最後に何かやりたいことはあるかねと父に聞かれ、「それじゃあ、ぜいたく言いますけど、お父さん、一度通して大相撲を観戦したいんです」と由紀(勝手に名前をつけました)。「おお、そりゃいい。お安い御用だ。さっそく谷崎さんにお願いしよう」と政財界の大物で「大」のつくタニマチに電話を。「おや、そうかい。あの由紀ちゃんがお嫁に行くかい。大相撲を通してみたいって、いい心がけだ。喜んで席を押さえさせてもらうよ」と谷崎。「一度、由紀ちゃんに顔を出すように言ってくれよ」と告げた谷崎は、椅子から立ち上がり、感慨深く庭を見つめる。父は由紀に「いいかい、あそこはしょっちゅうテレビカメラに映るからね。みっともない真似をおしでないよ」。「わかってますわ、その点はだいじょうぶ」と、銀座にブティックを持つ叔母に相談して、毎日、違うワンピースを着用して席に座った。

いや、妄想ですよ、妄想。