鴨下信一さん死去

さいきんの訃報で言えば、安野光雅さん、鴨下信一さんに取材でお目にかかっている。どちらも敬愛する人で、うれしかった。鴨下さんは、会うとすぐ「ああ、岡崎さん。ご本読んでますよ」と言ってくれたので驚いた。その後も取材中、何度か「岡崎さんなら(説明しなくても)分るでしょう」と、おっしゃった。「朝日」の訃報ではTBSのドラマの功績しか触れていなかったが、じつは大の読書家(雑本にまで手を伸ばす)で、著作も多い。いま思えば、持参した本にサインをもらえばよかった。安野さんにはもらってある。

木下恵介カルメン故郷に帰る」(1951年松竹)を観る。ひさしぶり。デジタルリマスター版で、驚くほど色がきれい。長編の商業映画ではこれが日本初のカラー作品だと思う。モノクロ映画に、CGで着色したような鮮やかさ。昭和30年代の雑誌のカラー口絵みたい。おもちゃのような軽便鉄道(草軽)と「北軽井沢」駅が登場。例によって軽い役を三井弘次が生き生きと演じ楽しい。つねに浅間山がバックに映る。草原、馬、牛、そして流れる雲。一枚いちまいが絵のようだ。

絵を日々描くようになって、映画でも写真でも日常の風景でも、すぐ「絵」の題材としてみるようになっていることに気づく。ここは(絵にすると)いいぞ、と思うのである。本職の画家は、ずっと毎日がそうであろう。すると「眼」が違ってくる。

本の雑誌」連載「憧れの住む東京へ」の「浅川マキ 4」を何とか仕上げて送付。「5」で着地させ、次は田中小実昌とバス、を考えている。山之口獏と地面、というのも候補である。終了後は本にしてもらえる予定である。大幅に加筆が必要だが。

ほか、少なくとも今年、単行本を一冊、編著の文庫を一冊作る予定。こうして64歳の1年をなんとかつないでいく。