お、食べてるねえ。

5日夕から王子「北とぴあ」で白鳥・菊之丞落語会。優待券(3800円が1800円に)があり、散歩堂さんを誘う。こころよく同行してくれることになり、コースを考える。昼、高円寺「杉並」展を覗いて、駅前3番乗り場から「赤羽東口行き」バスに乗る。約40分のパス旅。京浜東北線で王子入り。これが2時すぎ。駅前から石神井川沿いに歩き、「中央公園」内文化センター、中央図書館を見学。どちらも旧陸軍の施設をそのまま改装して活用。みごたえのある建築だ。この一帯、飛鳥山から続く台地で、本郷通の東、谷底に切れ込んでいる。名主の滝公園(深山幽谷という趣きに落差のある滝)、王子神社とめぐり「北とぴあ」という道程を楽しむ。くわしく「オカタケな日々」(春陽堂ウェブ連載)に書くかもしれないし、書かないかもしれない。

白鳥が新作2題。菊之丞が古典2題。トリの菊之丞「鰻の幇間」がいい出来。前座が終わり、2人が登壇し、落語界の話(前座時代)をしたのが珍しく儲けもの。志ん馬が怖く、菊之丞の師匠・圓菊(同じ志ん生門下)と仲が悪かった。白鳥が志ん馬に同行し、水戸の落語会に出たらお土産に藁に包んだ納豆をくれた。うれしくてほくほくしていると、志ん馬が「おれは納豆好きだから、それよこせ」と取り上げられてしまった。

ペヤング焼きそば」のCM(1975~92)で顔を知っていた小益(現9代目文楽)を、落語の世界へ入って楽屋でその顔を見て、初めて落語家だったと知ったと白鳥。その9代目と菊之丞は仲がいい。9代目は見たままを言う癖があると菊之丞。何か食べていると「お、食べてるねえ」。赤い服の人を見たら「赤いねえ」。知り合いの家に寄ったら、ちゃんと知り合いがいて「いるねえ」と、何でも見たままを言うらしい。「そりやあいますよ、自分の家なんだから」と菊之丞。ぼくはこの話が非常に気に入った。挨拶がわりに、とりあえず目の前の人に声をかけるのに、これはいい手だ。素晴らしいコミュニケーション術。ただ「太ったねえ」「顔色悪いねえ」など「負」のものはダメ。

それまでタレントのような存在だった小益が、落語史上の金看板「文楽」を襲名し、まわりがとやかく言い、またからかわれた(「あのペヤングが」)。それで大いに苦しんだ。落語家廃業を考え、志ん朝にこっそり相談すると、「あんちゃん、それはダメだよ。そんな淋しいこと言わないでおくれよ」と、自分が信心している千葉の神社に参拝することを奨めた。それで重い看板を背負う受難の道を歩くことになったのだ(「アナザーストーリーズ」で見た記憶による)。この話も好きだ。ちゃんと高座を聞いたことはないけど(ないと思う)、ぼくは9代目を支持する。