枕崎から稚内

YouTubeの鉄道ものはかなりマニアックで、「スーツ」というスターも生み出した。いや、これだけ詳しくて行動的で、これだけ達者に喋れればそりゃあなというとびぬけた存在であった。鉄道ネタはYouTubeに向いているのかもしれない。といっても、私はまったくくわしくないのだが。古本屋訪問、というネタはあるのだろうか。

なかに「枕崎から稚内」、つまり最南端から最北端のJRを普通列車(一部快速)で「青春18」を使って踏破、というのがあって、これは2時間ぐらい(CMを挟む)全部見切れなかったが腰が引けるつわものである。10時間以上乗車して、まったく平気みたい。つるんとした顔で駅そばとか食べている。スーツ氏と似たタイプの青年。

スマホが普及してから、長時間を塗りつぶすことのハードルが下がったようだ。スマホをほとんど使わない(駆使しない)私は車窓を眺めるか、過去を振り返り悔やむか、本を読むかだ。

種村季弘のエッセイを読み返しているが、その博覧強記ぶりにたじたじとなる。梶山季之の聞いたこともない上海小説にまで目を通している。種村は中学生のとき、焼け跡の銀座でピーナッツの露天商をやっていた。父親の月給1500円のとき、日に800円も稼いでいたという。この金で露天の古本を買う。本が払底していた時代、小林秀雄ランボー岩波文庫)が150円。この年の公務員初任給が540円。その3分の1として現在の6~7万円と考えれば「目のくらむような高さ」というのもうなずける。この時代、激しいインフレで、計算が間違っているかもしれないが、それでも買った。