暗黒の20代前半

 
 
 
古書善行堂
 
@zenkohdo
 
筑摩書房のPR誌「ちくま」が届きました。私は、古書店主として読む野呂邦暢、という文章を書きました。「愛についてのデッサン」はすぐ増刷が決まったそうです。岡崎武志が編集したちくま文庫、それを応援する文章を私が書く、滅茶苦茶嬉しい。のらくらしていた20代の岡崎と私に教えてやりたい。
 
古書善行堂がツィッターでこんなことを書いていた。同感、同感。「のらくらしていた20代」はその通りで、大学を出たものの就職もせず、京都でそれぞれの下宿で明日をも知れぬ毎日を送っていた。ぼくはこのころのことを思い出し、時々「キャッ!」と叫びそうになる。善行堂がなぜ、大阪に実家があったのに、わざわざ京都に下宿したのか。これが思い出せない。もう一人、同じ高校の3バカトリオのMという男と、京都で3人で年越しをしたことなど思い出す。京都の大晦日、元旦は格別であった。
いったい何を考えていたのだろう、将来、どうするつもりだったのだろう。よく思い出せない。いろんなことをあきらめて、それぞれの出発をしたのだった。情けない暗黒の20代前半であった。そうか、「ARE」や「 SUMUS」の前に、善行堂と同人誌に参加したこともあった。社会不適格者だがばつぐんの才能を持った森園さんという生きた詩人に出会ったのもこの時代。そうか、たくさんの人に出会ってはいたのだ。
いろいろな遅れを取って、善行堂もぼくも現在の職を得た。7月に高齢者優先のコロナワクチンを接種する。NHKで孤独死した人の部屋の後始末をする会社で働く女性を取り上げていた。意外にも50~60代の孤独死が多いという。「孤独死」といえば、わびしくみじめなイメージでネガティブに語られるが、そうではないのでは、と女性は言う。ぼくもそう思うなあ。選んだ生き方としての「一人」だろう。
先日、音羽館の広瀬くんと喋っていて、ずっと使ってきたバンを新車に買い替えることになり(コロナ禍の影響で部品製造がまにあわず納車が遅れている)、バイトをしていて独立したSくんにタダで譲ろうとしたが、それでも維持費はかかるからと断ったという。「ぼくがもらおうかな。人目のつかない海辺の公園近くに停めて、そこで寝起きして余生を送ろうかな」と言うと、「警察にすぐ不審尋問されますよ」と広瀬くんが笑っていう。「不審尋問されたら、私は火星人で、地球のみなさまを守るためにつかわされた、と言うよ」と、これは映画『美しい星』(三島由紀夫原作)の影響。