東京さくらトラム途中下車の「新潮講座」下見さんぽ

春あたたかき一日、10日。講座担当のMさんに同行してもらって、19日「新潮講座」オカタケ散歩「堀江敏幸『いつか王子駅で』を歩く」下見。余裕をもって出たらずいぶん早くついて、駅の連絡通路を出てすぐ親水公園近くの喫茶「ビッグ・ベン」でコーヒ。喫煙可の店でたばこ三本吸う。もちろん事前に調査したのだ。

15時、Mさんと合流。アスカルゴ(ケーブルカー)で飛鳥山を少し歩き(『いつか』私がベンチに座る)1925年架橋の鉄橋を渡り、都電王子停留所へ。『いつか』登場のガード下立ち食いそばをチェック。一日乗車券(400円)をスイカで登録、まずは「梶原」下車。早稲田方面ホームの「梶原書店」痕跡を見る。当日はここで解説。

荒川車庫で降りる。「男たちの旅路」(「シルバーシート」)で加藤嘉はじめ、老人たちが都電に立てこもる。吉岡司令補は都電「巣鴨新田」近くの木造モルタルアパート2階に住む。降車と乗車が違うホームだと「荒川車庫」で知る。これだから下見は必要なんだ。「荒川遊園」下車。まだ工事中、リニューアルオープン間近の「あらかわ遊園」を見る。観覧車に「私」が乗る。「私」が見た「小台橋」も近い。

このあたり下調べして小説を読みこんだのでくわしくは「オカタケな日々」に書きます。山田洋次「学校」で西田敏行扮する定時制高校教師クロちゃんが荒川二丁目停留所で降りる。パイプに火を。「町田」は、20歳ぐらいだったか、高校の友人が上京して住んだ町で、大阪から遊びに行って一緒に駅前で飲んだ。そこで生まれて初めて「チューハイ」を飲んだ。「世の中にこんなにうまい飲み物があるのか」と思った思いであり。

「荒川二丁目」下車。「ゆいの森」という図書館を有する立派な施設内の吉村昭文学館へ久々に。「赤旗」連載で取材した。併設されたカフェでアイスコーヒー(汗をかく陽気でうまい)。

終点「三ノ輪橋」。ドラマ「吉展ちゃん事件」で犯人小原保を演じた泉谷しげるが、このあたりで母親(市原悦子)が飲屋をやっていて、しばしば登場。あんまり景色が変わっていないとわかる。彰義隊墓、よしのぶちゃん地蔵のある「円通寺」へ行くが閉まっていた。土日なら開くだろうか。チェックしておこう。ジョイフル三ノ輪商店街を歩くが、中華以外に飲める場所がなく、地下鉄「三ノ輪」近くの「いたち」という串焼きの店(いい店)で打ち上げ。Mさんと出版業界のこと、山田太一のことなどたっぷり話す。Mさんは燗酒。それをやかんで温め、そのままやかんからコップに注ぐ方式なのにMさん、いたく感激をする(さいきんは「電子レンジ」でチン、という燗の店多いとか)。外から覗いて、店長が笑顔で仕事をしていたので、これはいい店だとMさんが判断。百戦錬磨の末の店選びが生きている。

新潮社、新しい体制で、機構も部署もまるで変ってしまった由。紙の本に頼らない出版業態を推し進めていくそうだ。Mさんはぼくより一つ下。70までぐらいは、やりたいことがあるので社に残るという。それでも自費出版事業以外では紙の本に携われない。ぼくも70ぐらいまで、今の仕事で食いつながないと(期待薄だが)。お互い、それでもまだ、いい時代を潜り抜けてよかったと確認する。東側へ来ると、帰り道がむちゃくちゃ遠い。東京駅まで出て、ちゃんと席を確保して座って中央線で一本。