本日は一日死んでいた。

昨日、快晴の空の下、「新潮講座」のスピンオフ、「オカタケさんぽ」で田園調布から九品仏へ。7名が参加(1名欠席)。おなじみのみなさんだ。田園調布で降りるのは初めて、という人多し。映画「陽のあたる坂道」のロケ地として、北原三枝が歩いた道筋をたどる(原作では自由が丘駅から緑ヶ丘)。ネットで精細にロケ地ハンティングしているサイトがいくつかあり、多くを教えられる。途中、焼き芋を買うシーンの背後に旧田園調布駅が遠く映り込むことからどの道か分かる。焼き芋の屋台があるのは現在の三菱UFJ銀行前と、あきれるほどネット上のみなさんは詳しい。  

ある本で、同作の美術木村威夫の証言を得て、田園調布ではなく横浜でロケされたと書かれているが、これは証言の取り違えで、邸宅は横浜だが、冒頭シーンは田園調布と映像と同定しながら結論づけている。同じ田園調布で撮影された「あいつと私」(これも石坂洋次郎石原裕次郎だ)のカットを使って証明し決着がついた感じだ。歩いてみれば、時代は変わっても田園調布が使われたと納得がいく。V字に下がってまた上がる谷底の円周は宝来公園通り。この宝来公園も小高雄二と北原三枝のシーンで使われている。敷地面積をぜいたくに使った優雅な豪邸群を見物しながら歩くのはいいものだ。どこかに5000万ぐらい紙袋に突っ込んで落ちてないかと探す。枯葉一枚でも1000円ぐらいするのでは、などと。

古墳群のある小高い丘のトップを歩いて玉川浄水場へ。現在は工業用水としての供給で水道水としては使われていない。日本一高い工業用水(地価に換算して)ではないか。田園調布雙葉中・高で、いかにお高くつく学校かをひとくさり。川上弘美が教師をしていたのは有名。浄水場敷地内に作られた芝生のおまんじゅうみたいな「ぽかぽか公園」で休憩。環八を渡ると九品仏商店街だ。

九品仏の広い境内で参加者に散策してもらい、アップダウンを5キロ以上歩き電池切れの私は山門脇の大木を半分に割った大ベンチで休憩。境内をネコが何匹か歩いている。四時の梵鐘がタイミングよく日暮れ近い九品仏に鳴り渡る。「リーンという反響が、境内いっぱいに鳴りひびいていた。それが、地面の底から湧いてる音のような錯覚を起させる」と「乳母車」にあるが、まさしくそのような体験をする。石坂は九品仏へ来て取材していると分かるのだ。

「木鶏堂書店」へみなさんをお連れし、古本買い。久しぶりに若いご店主と言葉を交わす。ちょうど4時から、九品仏商店街は車を乗り入れ禁止とし、ハロウィンの仮装した親子づれで埋め尽くされる。来る前に一軒、一日営業している中華を見つけ、ここを打ち上げと思ったがダメだった。ひと駅、自由が丘駅へ移動し、居酒屋を見つけ打ち上げをする。個室っぽい、掘りごたつ式のテーブルで乾杯。ほとんど映画の話をしていたような。まあ、とどこおりなく無事済んでよかった。と、これは毎回の感想。一番へばるのがガイド役の私なのである。本当は古本屋を覗いて打ち上げ、だけでいいのだが、そうもいかないだろう。忘年会として、一回ぐらいは参加費なしで実現したい。散歩堂さんが幹事をしてくれるだろう。

ハロウィン狂騒曲の渋谷を回避し、南武線経由で帰宅。長い一日でした。そうそう、田園調布へ行く前、高円寺の即売会へ寄ったのだ。そんなことをするから疲れるんですよ。草野心平詩集『玄玄』(筑摩書房)を買えたのがよかった。

本日午前中に、リモートでJPIC読書アドバイザー講座の「古本講座」を担当。90分ノンストップでパソコンの画面に古本を次々と見せながらしゃべりかける。やっぱり、目の前に人がいて、反応がないと調子が出ないや。本日は一日、死んでいました。