羅宇のすげかえ

古通」読者からハガキをいただく。うれしい。すぐ返事を書く。原稿を書くのは、森の中で木を伐る仕事のようなもので、倒した木の音を聞くのも自分だけ。文面からすると年配の男性のようだが、ハガキ一枚書くのも手間と勇気がいるものだ。ありがたい。

落語研究会」無観客の放送で扇辰「紫檀楼古木(喜)」を聞く。初めて聞く噺。狂歌ぐるいで大店をつぶした旦那が、落ちぶれて羅宇屋になる。女中をおくお妾さんらしい女性との「羅宇のすげかえ」を巡る話。軽い話だが、ここで扇辰が「羅宇のすげかえ」を解説入りでくわしくしぐさをやってみせた。そういうことだったのか、と非常に参考になった。ずいぶん前、巣鴨商店街入口で羅宇屋を目撃し、「ええ、まだいたのか」と驚いたが、「巣鴨商店街」「羅宇屋」で検索しても何も引っかかってこない。あれは夢だったのだろうか。いや、そんなことはない。はっきり記憶にあるのだ。

羅宇は雁首と吸い口をつなぐ竹で、原材料がラオスの竹だったからカンボジア語から来ていると説明があった。すげかえた竹をつけるのに、小さな火鉢で雁首と吸い口を温める。けっこう手間がかかるが、落語では「24文」と代金が挙げられる。江戸の前期と後期とでは物価が相当ちがうが、落語世界のそば十六文を基準に1文を現在の18円から20円ぐらいとして(当たらずとも遠からず)、24文は500円ぐらい。ずいぶん安い。しかし、想像だが、1日行商して10本こなせば5000円で、消費の少ない江戸ならこれでじゅうぶんやってゆけた。そういう時代に暮らしたかった。