あれ、財布がない!

あらら、2月は「小」の月でこれで終わりですか。「曇りガラスの窓を叩いて 君の時計を止めてみたい」は吉田拓郎「春だったね」でこの時期、自転車をこぎながらいつも歌っている。

27日は、散歩堂さん、それに元「毎日」のMさんと、『パーフェクトデイズ』にやられてしまったトリオで、映画ロケ地巡り。それがえらいことになりました。亀戸駅集合が、強風で電車が遅延し、散歩堂さんを待つあいだ、Mさんとチェーンカフェへ。散歩堂さんがぶじ合流。隣の大衆食堂でランチを食べて、支払う段になって、さあ財布がない。カフェへ戻り確認するが「なし」。駅前派出所へ届を出し、クレジット機能のついたカード二枚の停止など、墨を飲んだような気分になる。そんな重い荷を負わせてお二人にも申し訳ない。親身につきそってくださった。このまま一人、帰ろうかとも思う。

じつは現金がけっこう入っていて、派出所では「そんなに現金が入っていたら」出てこない可能性が高いなどと言われ、9割5分、あきらめる。失意のまま、「パ」の平山のアパートへ。これは映画そのまま(当たり前か)に感動する。どうやら、建物の解体前提でロケに借りたのではないか。人が住む気配はない。隣りの天祖神社(朝、道路をほうきで掃く音で平山は目覚める)へお参り。ぼくひとりおみくじを引くと、「小吉」で、「失せもの」の欄に「人に問えば、出る」とある。9割5分諦めていたのが、7割ぐらいに減る。コインランドリーはもと「さくら湯」で平山はここで洗濯、その近くの自販機で、平山が毎朝飲む「BOSS」缶コーヒーを買う。肉屋で100円のコロッケと、60台トリオが調子こいて下町さんぽ。これで桜橋を渡り、浅草「地球堂」で古本、地下の「やきそば屋」で締めたら「パーフェクトデイ」となる。

たばこと塩の博物館」へも行きたかった。「たばこ屋」展を開催中。ここで妻とのメールのやりとりに進展。自宅に連絡あり、ぶじカフェで保管されているとのこと。歓喜の三人。天祖神社の御利益か。あとで細かく検証すると、じつは早くに財布は見つかっていたみたい。携帯に電話をくれたが、ずっと銀行その他と「停止」の折衝をしていてつながらず、自宅へ電話してくれたみたい。カフェの店員に名刺を渡しておいてよかったのである。あとでカードの「停止」解除で、また大変な手間となるのだが、いやいやカフェには感謝しかない。「プロント」さんだ。

三人に告げると、無音の拍手で喜んでくれる。いや、心配かけて申し訳なかった。いえいえ、よかったですと、残りのスケジュールをキャンセルし、はやる心で亀戸駅へ帰還。ぶじ財布を手にする。いつ、どうして手から離れ、どんな形で見つかったか不明。スイカ機能のついたカードも停止したので、この日、移動はすべて現金。これがどんなに面倒か(財布がないので、いちいちポケットの小銭をじゃらじゃら)わかる。ぼくはスマホの機能を始め、便利主義に背を向ける者だが、この交通運賃のカード決済は、ちょっと手放せそうにない。

よかった、よかったと阪神日本一祝賀のように三人で高円寺へ移動。「まぐろ屋」でまず乾杯(若者がうるさい)、数年ぶりに「コクテイル」へ。映画監督の越川さんが来店し挨拶。それに京都で古本屋を始めるという和服の若者(22才!)を狩野さんに紹介してもらう。散歩堂さんのお誘いで「ちんとんしゃん」とはしご。現金が戻ったので気が大きくなる。「ちんとんしゃん」の女将のりこさんに財布の一件を話すと、「岡崎さんの人徳ですよ」とうれしいことを言って下さる。ぼくに「人徳」があるなら、本当にそれにすがって生きてきたのだね。結果オーライの長い一日だった。木山捷平なら、このこと、うまく小説に仕立てるだろうな。

『パーフェクトデイズ』トリオはその後、「スィッチ」の特集号を入手。熱はまだまだ冷めていない。次は渋谷区の美しいトイレ巡りか。「人に問えば、出る」と励ましてくれた、亀戸天祖神社へはお礼参りにいかないと。