映画「花の中の娘たち」の梨農家は登戸(宿河原)か。

ユーチューブで山本嘉次郎『花の中の娘たち』(東宝・1953)を、最初の30分ぐらい見る。最初、多摩川に架かる小田急の鉄橋が映り、その対岸で梨を作る農家の話。ナレーションで、この時まだ、多摩川を人が渡る橋が付近になく(渡し船があった)、そのため東京とまったく別の環境で人々が暮らしていたという。映像で見ると、信州の農家みたい。「土地を売って東京へ」など、東京との懸隔が協調されている。言葉遣いもまったく違う。婚礼のシーン、花嫁が火のついた藁の上を歩く(風習)場面があり、一つ川を越えたら東京、の世界とは思えない。とんでもない田舎である。ナレーションにもあるが、この公開の年、多摩川に歩道付きの橋「多摩川水道橋」が架かる。

東京のホテルに勤める姉(杉葉子)に、暴走トラックにより一家の長男を事故死した知らせを妹(岡田茉莉子)が伝えに行くのに、電車(小田急)に乗る。「電話や電報より、お前が電車で行ったほうが安くて速い」というのだ。下駄ばきの妹は、めまぐるしい都会の東京でまごつき、ホテルについても「フロント」「フロアクラスのセクション」など、聞きなれない言葉に戸惑い、下駄を脱げと支配人らしき人に言われついに涙ぐんでしまう。ホテルには占領軍の米兵がいて、時代を感じます。小林桂樹、小泉博など東宝スター総出演。

鉄橋が映る位置関係からして、梨農家の舞台はどうも登戸近く、宿河原のあたりではないか。ぼくはかつて宿河原(川崎市多摩区)に住んでいたが、26~7年前、近所に梨畑があった。すっかり宅地化されてはいたが、この映画で描かれる風景の名残りがまだあってすでに懐かしい。久しぶりにあのあたり、歩いてみるか。