広瀬くんとモスバーガーで蓮實重彦の話を

特に記すこともない日々である。ただ、ぽっかり春のごとく陽気に包まれて自転車散歩をすると、どこかへ行きたくなってくるのだった。

土曜日、高円寺「杉並」展を覗き、西荻へ。音羽館広瀬くんと「物豆奇」へ行くも臨時休業、その近く、おしゃれカフェも休んでいて「モスバーガー」まで流れていく。いろいろよもやま話。古書現世の向井くんのご尊父が逝去されたと知る。向井くん、ずっと大変だ。そういえば、と蓮實重彦の話になり、さいきん、あまり本を見ないなあなんてしゃべっていると、一時期、売れない時期があったが、いままた「出ればよく売れますよ」と広瀬くんが言う。僕は『監督小津安二郎』ほか数冊を残し、あとは全部うっぱらってしまったんだ。

エドワード・ヤン『クーリンチェ少年殺人事件』を予備知識なしに見始め、激しく心を動かされる。4時間以上ある、とも知らなかった。1992年公開時、何かでチラシか記事を見た記憶(どう読むか分からぬ原題の漢字の配列)だけがあって、30年後にガツンと交通事故のように衝突した。説明をしない、アップの表情でエモーションをあおったりしない、引きの画面が多いことなど、厳格なスタイルで作られている。小津の影響、を言いたくなる映画だ。でも果たして本当はどうか。ただ4時間は長かった。2時間過ぎて、「え、まだ続くの」と思ったぐらいで、2度に分けて視聴。ちょっと、何か、もう少し言いたくなりますね。

「古書通信」連載、小田原「高野書店」の回を書く。ユーチューブで「今夜は最高!」がいくつか見られることを知る。竹中直人の「中津川ジャンボリーくん」も見てしまう。BSーTBS「路線バスの旅」2018年の再放送、原田龍二が秋田から横手、角館、乳頭温泉へバス旅する回を見ていて、最後乳頭温泉の湯めぐりをするなかで「蟹場温泉」の露天混浴湯が映る。ああっ、と思ったのが、20数年前、家族で十和田湖から乳頭温泉へ旅行した際、ここに宿泊し、まだ3歳ぐらいだった娘と入ったのがこの湯だった。はっきりと思い出した。記憶が鮮明なのに、逆に驚いたほどだ。不倫っぽいカップルと、若い女性がすでに入湯していて、ぼくが入ると、女性はあわてて出て行った。脱衣場でその女性をつかまえて、これから入る娘があれこれ喋りかけて、女性は困っていたことも思い出す。

13日深夜、激しい揺れあり。福島・宮城で震度6。10年前の大震災の余震だという。10年といえば、人間にとってそれなりに長い時間だが、地球時間からすると一瞬。まだまだ油断めさるな、のメッセージか。絵を何枚か描く。