「明日の夢があふれてる」は、よき日本映画のスタンダードなり。

暮れも押し詰まった28日、冬晴れの日。音羽館の広瀬くんからもらったラピュタ阿佐ヶ谷の招待券2枚、1枚は「暗夜行路」を見て、もう1枚、今年いっぱいの期限でむだにしたくないと出かけた。1時からの番匠義影監督(松竹のなんでもあれの職人)「明日の夢があふれている」を見る。これがよかった。

解説によると「浅草の六区ーー古いのれんを誇る天ぷら屋『天勝』を舞台」うんぬん。よくできた喜劇で、おじいちゃんたちの客席がよく沸いた。鰐淵晴子(現実離れした美しさ)と勝呂誉の恋の行方がメイン。三田明と柏木由紀子の幼い恋も華を添える。撮影が厚田雄春で、月丘夢二、佐野周二三上真一郎、北竜二とくれば小津映画みたい。

浅草寺はじめ、隅田川河畔、吾妻橋、東急百貨店、待乳山聖天と浅草の観光映画でもある。落語好きの社長(桂小金治)のいる会社へ入社するため落語修行をする大学生に松山英太郎(落語シーン多し、器用なもんだ)。楽しい80分で、ニュープリントのカラーもきれい。正月に劇場で見たいですね。天ぷらが食べたくなる。

「明日の夢があふれてる」気分になり、ひさびさに「コンコ堂」へ。均一に美本の中里恒子『誰袖草』(青山二郎装幀)を見つけ、麻生レミ表紙の『ポケットOH!パンチ』とともに店内へ。レジには「コンコ堂」奥様が。久々だから面は割れていないとそっと出したら、「ちくま文庫(古本大全)仕入れさせていただきました」と言われうろたえる。悪事が露見したようにぺこぺこ礼を言う。天野くんなら軽口を叩くところだが。

このあと、前から考えていた。野呂邦暢『愛についてのデッサン』の佐古書店があったと設定された場所へ行く。途中、神明宮、天祖神社は迎春の準備中。佐古書店は作中に住所が出てくるのなり。パチリと記念撮影して「X」にアップ。興味持つ人いるかしらん。車中で漱石『明暗』を読み継ぐ。