夢でもいいから

西部古書会館「均一祭」3日目、50円均一へ開場にあわせ出かける。均一祭こそ、ゲートから一斉スタートに加わるべきと、経験が語る。しかし、今回が開場と同時は初めて。30名ほどの猛者たちといざ出陣。2日目の100円であらかた拾うべきものは拾われている。日参したらしいご老体が「ちぇっ、誰かが抜いてやがんの」と。2日目にチェックした目当ての本があったらしい。

私は先日、山梨県立美術館で見たミレーの「落穂ひろい」の気分で、あれこれ抜いていく。17冊買って650円。このあと、カフェで休憩し、ひさしぶりに「キッチン南海」でカツカレーを食べたが850円で、こっちのほうが高かった。中央公論社幸田文全集の『流れる』の収録巻が残っていて、本体布が浦野理一が全集に製作した布を使っている。このことを、9月の「読書アドバイザー講座」で言いたい。惚れ惚れする造本で昭和33年に380円。国家公務員初任給が9200円、週刊誌30円、コーヒー50円。中とって15倍としても現在なら5000円ぐらいしたということか。

松竹東急で録画した大林宣彦異人たちとの夏」をひさしぶりに見る。鶴太郎と秋吉久美子がすばらしい。地面を蹴るように、かくかくと歩く鶴太郎の絵に見ほれる。主人公が12歳のとき亡くなった両親に、異次元の中で再会するという話だが、「まさか、お父さん」と主人公が親しくなっていくシーンに泣く。ぼくも16の時、42歳で死んだ父に、幽霊でもいいから会ってみたい。柳行李に父が書いた生原稿や、朝日新聞に投書して掲載された記事が死後見つかった。書く仕事がしたかっただんろうな、と思う。夢でもいいから出てきて「たけし、ようがんばったな」と褒めてもらいたいのだ。